The Role of Attack Time in Piano and Guitar Timbre


氏名:横田敏明
学籍番号:035760A
指導教官:M.R.アシャリフ
[概要][アタックタイムの重要性を検証する][弦楽器のシミュレーション][まとめと今後の課題] [参考資料] [データ]

概要

今回の研究は,楽器の音色に関する研究を行う. 研究内容は,楽器のアタックタイム,ディケイタイム,サスティンタイム, リリースタイムが,楽器の音色に大きな影響を与えていることを検証する. 音色は,その楽器が発する振動の,スペクトル分布だけで決定されるのではなく, 音圧の変化のふるまいなども関係しているといわれている. とくに,アタックタイムの音圧のふるまいが,大きく影響しているという仮定の もと,その他のディケイタイム,サスティンタイム,リリースタイムに関しての 影響も検証する.

また,研究の成果として,MATLABによる弦楽器のシミュレーションも行う. ギターやピアノの場合,弦の振動が始まってから定常振動に移行する区間をアタッ クタイムというが,これをコンピュータ上でシミュレーションすることで, 物理シミュレーションを利用した新たな方式のシンセサイザーを作り出すことが できる.


アタックタイムの重要性を検証する

実際の楽器を録音し,そのアタックタイムを測定する. アタックタイムとは,楽器が振動を開始してから最も振幅(つまりは音圧)が大き くなるまでの時間を言う.弦楽器の場合,この間が定常波の生成プロセスとなる.


アタックタイムから、リリースタイムまで

ピアノとギターのアタックタイムを入れ換え(アタックタイムのスワップ), 音色がどう変化するのかを検証する.また,アタックタイムのレベルの変化に対 して,人工的にエフェクトをかけて音色の変化を検証する. 検証の方法として,実際に複数の人にアンケートをとり, その結果から,アタックタイムが音色に相関があるのかを判定する. ピアノとギターは弦楽器である.これら二つの楽器の音色は,物理的には非常に 似通った振動をする. しかし,人間には簡単にギターの音とピアノの音を識別することができる. よって,音色の変化を人間の感覚で判定する方法が妥当である.

具体的には,複数の人にアタックタイムを除いた定常状態の音を聞かせ, どれがギターでどれがピアノの音かを判定させる. また,アタックタイムをスワップした音,人工的にアタックタイムにエフェクト をかけた音も判定させる. 音階と鳴らす強さごとに,正解率を表にまとめ,アタックタイムの影響を検証す る.
調査する項目を以下にまとめる.


弦楽器のシミュレーション

弦楽器とは,ボディによって張力をかけられた糸を振動させ,その振動をボディ 自体で大きな音に変える楽器のことをいう. 弦の両端は固定端になっており,ピッキングの振動が弦を往復し,定常波になる. この様子をシミュレーションすることが目的である.

弦は質量がほぼ均等に分布していると仮定し,その線密度をρ(kg/m)とする. また,自然長はLである. 弦は通常,横方向の曲げに対しての弾力と,縦方向の伸びにたいして弾力がある. 横方向に対する弾力をk_y,縦方向の弾力をk_xとする. また,空気抵抗によって減衰力が発生しており,その力は速度に比例すると仮定 して,その空気抵抗はCd(N/m/s)という比例定数で表すことにする. 弦の両端からは,張力T(N)がかかっており,その張力は弦のどの点に於いてもほ ぼ同じである.弦をN個の点の集まりと考え,各点に於いての座標と加速度を漸 化式で求めてゆく.

弦が振動している状態において, ある点P_n(x_n,y_n)から微小区間隔てた点を,点P_n+1(x_n+1,y_n+1)とする. 座標は,弦の両端の点を結ぶ直線をx軸,その直交軸をy軸としている.


点P_nが両隣からの張力によって受ける力

点P_nにおける,隣り合う点からの張力の合力を,ベクトルF_nで表す. ベクトルF_nを成分表示すると

となる.ただしd_nとT_nは,

を満たすものとする.

正確なシミュレーションを実現するために,弦の曲げ剛性も考慮する. 曲げ剛性とは,弦が曲がることに対する弾性のことを指す. このシミュレーションでは,「曲げに対する反発力は,描くカーブの直径に対して 単純に反比例する」と考える.
よって,ある連続した3点が作る三角形の外接円の半径を,順次求めてゆき,曲 げ剛性による力を計算する.
まず,P_nを中心とする3点の場合を考える.
ベクトルの内積から, ベクトルのなす角を求める.

ここで,P_n-1とP_n+1の距離をD_nとおき,P_nを3点の中心として 考えた三角形の外接円の直径をR_nとおけば,

となる.

点P_nを中心に考え, 点P_nに於いての曲げ剛性による力をF'_nとおくと, 各3点に加わる力の大きさは,

となる.

加速度は以下の式で表される.

上で求めた加速度は,空気抵抗等を無視した場合の加速度であるが, 空気抵抗による減衰や,弦の伸びや曲げに対する弾力を考慮すると, より複雑な式となる.

まとめと今後の課題

正確なシミュレーションを行うとすれば,曲げ剛性を考慮する必要がある. 現在,弦の振動のシミュレーションは,曲げ剛性はゼロとして行われていること が多いが,質量の小さなギターの弦などでは無視できない.
弦の両端をボディに固定した状況でのシミュレーションを行うには, ボディの剛性や質量,形状も考慮しなければならないが, それらを完全にシミュレーションすることは,ほぼ不可能に近い. よって,ボディのインパルスレスポンスを実際に測定し, 弦の両端の振動を入力とするようなシステムを構築する必要がある.

参考文献

[1]「理工系の数学入門コース フーリエ解析」大石進一著 1994年 岩波書店発行
[2]平成16年度卒業論文 「物理モデルを用いた音の創生」 高知工科大学 李相信

データ

ギターの音wavfile
ピアノの音wavfile
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